last updated 1997/08/16
第93話(全130話)
ケダックの悲しみ(2/2)
「カイラ国へ報せれば、それが戦いの火ぶたを切ることになるかもしれませんよ」とマリカ。
「そうなのです。それはその通りでしょう。どんなに言葉を並べても、われわれの事情をカイ
ラ王に理解してはいただけないと、私も思います。ですから、姫に直接お願いしたいのです。
われわれにご協力いただけないか、と。われわれの調査のために、しばらくここにご滞在願え
ないか、と」
「嫌です。わたしは旅の途中です。宿は自分で捜します。お世話にはなりません」
「どうしても、ですか」
「はい」
「テオを救うためだと私は申しました。それでも駄目なのですか」
「どういう意味で仰ってるのかわかりません。テオを救う、とはどういう意味です? いった
いテオにどんな危険が迫っているというのですか。何からテオを守ると仰ってるんですか」
「わかりません」
モネット大佐、苦しげに首を振る。
「それがわからないから、いまは何でもかんでも、係わりのありそうなものを収拾している段
階なのです。浜で遠吠えをしていたグノートンなら何か気づいているのかもしれませんが、そ
れもグノートンを調べてみなければ何とも言えません。わからないからこそ、ご協力願いたい
申しています」
「説明がないのなら、やはりわたしには協力などできません。ただちに解放を求めます」
「・・仕方がありません」
モネットは重く息をついた。そして言う。
「あなたを拘束します」
「何ですって?」
問い返した時にはもう、マリカは両腕をモネットの部下に取り押さえられていた。
「カイラ王には申し訳ないが、姫君はわれわれの手で拘束させていただく。もしテオの危険の
正体が判明し、その時点で姫の協力は必要ないとわかったら、その時は解放しましょう。姫を
無理に拘束したことを国を挙げて謝罪もしましょう。しかしいま、姫の自発的な協力が得られ
ないなら、拘束させていただくよりほかありません」
「ちょっと! この手を離しなさい!」
マリカは暴れた。腕に覚えのある姫君は、けれど屈強な男ふたりに後ろから羽交い締めにさ
れて、ただ足をバタバタさせることしか出来なかった。
そんなマリカを悲しそうにみつめてモネット大佐は言った。
「あなたはケダックをまったく信用なさっていないようですね。われわれの言うことなど、信
用する価値はないと、そういうわけですか?」
「信用するも何も、何を言ってるのかさえわからないわ!」
「わかろうとして下さらないからです。頭から、ケダックの言うことだと疑いの目を向けてら
っしゃる。そういう目で見られていては、どんなに心をつくして真実を話しても、やっぱり理
解はされないのでしょう」
「話をわかろうとしないあたしが悪いと言いたいの?」
「いえ、悪いのはわれわれなのです。ケダックはほかの民族を威圧するばかりで、少しも仲間
に加わろうとしない。それどころか他国を見下して、自分たちこそこの星の支配者だと慢心し
ている。あなたにも、ほかの国々の人々からも、われわれはそう思われている。それが悪いの
です。誰の協力も求めず、いつでも自分たちだけで最高の国を作ろうとしてきたことが、悪い
のです。だから、いざという時、周りに助けを求めても、それがどんなに切実な気持ちから出
た言葉でも、誰からも信用はしてもらえないのです。ケダックをそんな国にしてしまったわれ
われが悪いのです」
モネット大佐は言い、悲しげな目をマリカに向けると、「それでも」と続ける。
「われわれはこのテオの一員であることに変わりはありません。テオを愛し、守りたい気持ち
はほかの国々の人と同じです。だから、無理を言います。また嫌われるようなことを敢えてさ
せていただきます。そうするしかないからです。心で理解し合えないのなら、力ずくで協力さ
せるしかないではありませんか。ほかにどうすればよいのですか」
問われても、マリカには応えられない。
彼女にはケダックの悲しみなど関心はなかった。こんな莫迦でかい船を作り、それを飾り立
て、我がもの顔で海に浮かべ、その巨大さと科学力を見せつけることで他国を無言のうちに制
圧して悦に入っている。そんな国の人間の言葉をどう信じればいいと言うのか。自分の意に添
わぬ者を、こうやっち力付くで押さえつける感性の、どこを信用しろと言うのだ。
マリカはそう思う。
そして彼女はドンロンの中心街にある賓客用ホテルの最上階に軟禁されることとなった。
そこへ向かう小型モノレールの中から街を見ると、市場があり、子供たちが走り回り、羊を
連れた老人が佇み、まるでカイラ国の城下町と変わらない光景がそこにあった。
どこの国の人間だろうと、生活の基本は変わらない。人は、たとえそれが巨大な船の上だと
しても、大勢集まれば、それなりの生活を作り上げてしまう。人と触れ合う喜びに溢れた街を
。子供たちを遊ばせておける広場を。羊を放てる野原を。そして恋人たちが寄り添う公園を。
どこの国でもそれは同じ。カイラ国もケダック国もない。こんなに立派なものを作り上げら
れる技術力があるのに、どうしてケダックの人はそれがわからないのだろう。人として生き、
毎日の生活の中に喜びをみつけ出そうとしているのは誰だって同じなのに、何故、見下したり
、力で押さえ付けたりするのだろう。
それがわからない以上、ケダックにどんな頼み事をされようと、うなずくことはできない。
マリカはそう思った。
モネット大佐の悲しげな顔を、自業自得だと、そう思った。
(つづく)
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